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「海外資産を使った節税」策は次々と封じられています!

2023.11.06

目次

国際課税面での経験を持つ税理士の原賢治と申します。

ブログへのご訪問、ありがとうございます。

海外に資産を持つ人は税務署に「国外財産調書」の提出が必要

海外に資産を持つ人は税務署に「国外財産調書」の提出が必要

かつては、税務当局が海外資産を把握することが困難であったこともあり、日本国外に財産を持ち出すことにより、海外に資産を保有することで日本の税を逃れようとする人がいました。

その実態が注目された例として、例えば「パナマ文書」として有名になったパナマの法律事務所の顧客名簿などの内部文書の流出、海外中古建物投資を利用した節税策などが新聞や雑誌の紙面を賑わしていたことは記憶にないでしょうか?

今回は、こうした人への国側の対抗措置の一つとして設けられている「国外財産調書」制度について解説します。

 

Ⅰ 国外財産調書の概要

(1) 国外財産調書制度とは

「近年、国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る課税の適正化が喫緊の課題となっていることを背景として」、平成26年(2014年)1月、国外に財産を保有する富裕層に対して海外資産の内容を税務署に申告することを義務付ける国外財産調書制度が導入されました。

国外財産調書制度は、一定額以上の海外資産を保有する人に、調書を作成して税務署に提出することを義務付ける制度です。

(2) 提出義務がある人

国外財産調書を提出しなければならない人は、次の人です。

・その年の12月31日時点において、海外に価額の合計額が5,000万円を超える財産を保有する居住者(非永住者を除く)

(注意) 所得及び復興所得税の確定申告をする必要の有無は、提出義務に連動していませんので、誤解しないよう、ご注意ください。

・ただし、相続開始年については、その相続・遺贈により取得した国外財産を記載しないで提出することができます。

 

(3) 記載が必要な事項

国外財産調書に記載しなければならない事項とは、次の事項となっています。

・国外財産調書を提出しなければならない人の氏名、住所又は居所

・国外財産の種類、数量、用途、所在、価額及び所在地

・その他の事項

国外財産調書と併せて国外財産調書合計表も提出しなければなりません。合計表では財産の区分ごとの価額の合計額を記載しなければなりません。

(4) 提出先

提出先は、それぞれの区分に応じて次の税務署になります。

・所得税及び復興特別所得税の確定申告をする必要がある人

その納税地を所轄する税務署

・所得税及び復興特別所得税の確定申告をする必要がない人

住所地(住所がない人は居所地)を所轄する税務署

 

(5) 提出期限

翌年6月30日まで(令和4年分までは翌年3月15日まで)

 

(6) 財産債務調書を提出する方でも、国外財産調書の提出は必要

「財産債務調書」の提出が必要な方であっても、12月31日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する方は、国外財産債務調書の提出も必要になります。

詳しくはご相談ください。

 

(7) 罰則規定

国外財産調書を提出しなかった場合の罰則は、次のとおり厳しい規定となっています。

次の行為をした場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます(国外送金等調書法)。

① 偽りの記載をして国外財産調書を提出した場合

② 正当な理由がなく提出期限内に提出しなかった場合

③ 提出に関する調査で当該職員の質問に答弁しない、偽りの答弁をする、検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合

④ 提出に関する調査で物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由なくこれに応じず、又は偽りの記録をした帳簿書類を提示、提出した場合

 

(8) 「国外財産調書」と「国外財産調書合計表」の現物を見てみよう!

国税庁のホームページに掲載されています。

カラープリンター出力すれば、そのまま提出用として使用できます。税務署の窓口でも入手可能です。

タイトル「F4-2 国外財産調書(同合計表)」

 

(小括) 国外財産調書を提出するための4W

・いつ(When

翌年6月30日まで(令和4年分までは翌年3月15日まで) 

・どこへ(Where

所轄の税務署へ

・誰が(Who

1231日現在、海外資産の合計額が5,000万円を超える居住者(非永住者を除く)

・何を(What

国外財産調書と国外財産調書合計表

 

Ⅱ 「国外財産調書」に記載する財産の価額について

国外財産調書に記載する国外財産の価額は、その年の12月31日における「時価」又は時価に準ずるものとして「見積価額」によることとなっています(国外送金等調書法)。

 

(1) 国外財産の「時価」とは?

国外財産の「時価」とは、その年の12月31日時点で、不特定多数の人々の間で自由な取引が行われる場合に、通常成立する価額をいいます。

 

(2) 国外財産の「見積価額」とは?

国外財産の「見積価額」とは、国外財産の種類に応じて、次の方法で算定した価額のことを言います。

① 事業用の棚卸資産

その年の12月31日の棚卸資産の評価額

② 不動産所得、事業所得等に係る減価償却資産

その年の12月31日の減価償却後の価額

③ 上記以外

その年の12月31日の、その財産の取得価額や売買実例価額などを基に、合理的に算定した価額

 

(3) 国外財産の見積価額の合理的な算定方法の例について

国外財産の種類 見積価額の算定方法
土  地

建  物

山  林

・その年の固定資産税に相当する税の計算の基となる課税標準額

・取得価額にその後の変動率を乗じて見積もった価額

・翌年、調書の提出期限までに譲渡した場合の譲渡価額

・(業務用以外の建物)取得価額から経過年数に応じた減価償却費を控除した金額

現金預金 12月31日の有り高
有価証券

(取引所等に上場等されている有価証券以外の有価証券)

次のいずれかの方法で算定した価額

・12月31日における適正な売買実例価額

・売買実例が無い場合には、翌年の国外財産調書提出期限までに譲渡した場合の譲渡価額

・上記2つの実例が無い場合には次の価額

株式の場合、法人の純資産価額をもとに合理的に算出した価額

新株予約権の場合、12月31日における目的となる株式の見積価額から権利行使価額を控除した金額に取得できる株式数を乗じて計算した金額

・上記いずれにも該当しない場合、取得価額

貸付金未収入金 ・12月31日の元本の額
書画骨董

美術品

貴金属

次のいずれかの方法で算定した価額

・12月31日における適正な売買実例価額

・上記がない場合、翌年の国外財産調書提出までに譲渡した場合の譲渡価額

・上記いずれにも該当しない場合、取得価額

なお、財産評価基本通達で定める方法により評価した価額を、国外財産調書に記載する国外財産の価額とすることも可能です。

(4) 借入をして国外財産を取得している場合の取扱いは?

金融機関からの借入金で国外財産を取得している場合であっても、国外財産の「時価」又は「見積価額」の算定に当たっては、借入金元本を差し引くことはできません。

 

(5) 外貨で表示されている国外財産の日本円への換算方法はどうする?

国外財産の価額を本邦通貨(円)へ換算するときは、その年の12月31日における外国為替の売買相場によって行うこととなっています。

Ⅲ 国外財産調書に記載が必要な国外財産とは・・・・財産が「国外にあるかどうか」の判定について

国外財産調書に記載すべき「国外財産」とは、当たり前のように思えますが、「国外にある財産をいう」ことと定められています。

財産が「国外にあるかどうか」は、基本的には、財産の所在について定める相続税法第10条第1項及び第2項の規定に基づき判定します。

ただ、有価証券等については、金融商品取引業者の営業所等に開設された口座の振替口座に記載されているものであれば、営業所の所在地で判定します。

 

(1) 財産の所在の判定について

代表的な財産を例に、国外にあるかどうかを次のとおり例示してみました。

財産の種類 判  定
動産若しくは不動産又は不動産の上に存する権利 その動産又は不動産の所在地
銀行等金融機関の預金、貯金、積金、預託金 その受入れをした事業所の所在地
保険金(保険契約での権利を含む) 保険会社本店又は主たる事務所の所在地
貸付金 債務者の住所、本店等の所在地
株式、社債、出資等 株式・社債の発行法人、出資されている法人の本店等の所在地

 

(2) 国外財産調書の記載が必要か?判断の具体例

迷いやすいと思われる事例を4例、紹介します。

国内銀行の国内支店に開設した外貨預金口座 国内支店の口座であり、記載対象外
国内事業者を通じて国外不動産を購入 不動産が国外に所在するため記載要
外国で設立された法人への資金の貸付 債務者の法人の本店が国外のため記載が必要
国外暗号資産取引所に保有する暗号資産 財産を有する人の住所で判断

Ⅳ 国外財産調書制度における加算税の軽減・加重措置・・・提出すれば軽減措置・提出しなければペナルティが加重されます!

国外財産調書は、その財産を保有する本人が、海外に保有する財産の情報を提出する制度です。

自主的で適正な提出を促すインセンティブとして、過少申告加算税と無申告加算税に関する特例措置があります。

措置の内容は次のとおりです。

(1) 過少申告加算税の軽減措置

国外財産調書を提出期限内に提出した場合には、国外財産調書に記載された国外財産から生じる所得で一定のものに対する所得税と相続税の申告漏れが生じたとき。

その国外財産に関する申告漏れ部分の過少申告加算税について5%軽減されます。

 

(2) 過少申告加算税の加重措置

国外財産調書の提出が期限内に行われていない場合、提出期限内に提出された国外財産調書に記載すべき国外財産の記載がない場合、重要な財産の記載が不十分な場合などのとき。

その国外財産に係る所得税等や相続税の申告漏れがある場合には、申告漏れに係る部分の過少申告加算税等について5%加重されます。

 

(3) 国外財産調書に記載すべき国外財産に関する書類を提示しない場合の特例措置

国外財産に関する所得是又は相続税の調査で修正申告等がある場合、その修正申告等の日前に、国外財産調書に記載すべき国外財産の取得、運用、処分等に関する書類の提示又は提出を税務署から求められた場合に、その日から60日を超えない範囲内で、提示等の準備に通常要する日数を勘案して指定された期限までに提示等がなかったとき。

・上記①の軽減措置は適用されません。

・上記②の加重措置については、加重割合が5%から10%になります。

 

Ⅴ 世界各国の税務当局が行っている非居住者の金融口座情報の交換制度(CRS)について

外国の金融機関を利用した国際的な脱税や租税回避に対処するため、OECDにおいて、非居住者の金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準「共通報告基準(CRC:Common Reporting Standard)」が公表され、日本を含む各国がその実施に向け取り組みました。

この基準により、各国の税務当局は、自国の金融機関から非居住者が保有する金融口座情報の報告を受け、租税条約の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に、その情報を提供しています。

 

日本では、平成29年1月1日以後、新たに金融機関に口座開設する人は、金融機関へ居住地国名等を記載した届出書の提出が必要になっています。

報告の対象となる国には、スイス、香港、シンガポールなどの金融立国のほか、英国、フランス、韓国、中華人民共和国などが含まれています。

また報告対象となっている国数は、平成29年12月時点で83ヶ国でしたが、令和4年12月では106ヶ国・地域となり、毎年拡大しています。

このような取組の結果、今後、ますます海外資産を利用した租税回避行為は困難になっていくものと考えて間違いないでしょう。

 

Ⅵ まとめ

今回は、国外財産調書制度についてご紹介しました。

ここまで読んできてお分かりのように、「海外の資産であれば、税務署に知られることはない」という考え方は、すでに終わったと言って間違いありません。

海外にある資産に関する税金に関して、不安や疑問をお持ちの方は国際税務の経験豊富な専門の税理士にご相談ください。