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納税資金の準備(上場株式の譲渡編)

2023.11.13

【1】納税資金準備のために株式を売却するケース

 相続した財産のうち不動産の占める割合が高い場合、納税資金について手元資金が不足することがあります。

 そのような場合、納税資金の準備の必要性などから、換金性の高い財産を処分する必要性が出てきます。

 今回は換金性の高い財産である株式について、売却・処分(以下「譲渡」という。)した場合に課せられる税金について説明しようと思います。

【2】株式の譲渡所得は分離課税

 相続した株式を譲渡すると、譲渡益(以下「譲渡所得」という)に対して税金が課せられます。サラリーマンの「給与所得」や個人事業主の「事業所得」などは確定申告の際、それぞれの所得を合算して課税されますが、株式の譲渡でもたらされた所得は他の所得と分離して所得額を計算し、一律の税率を乗じて税額を算出します。これを「分離課税」といいます。

 実際の計算では、株式を「上場株式」と上場していない株式「非上場株式」に分けた上で譲渡所得を計算し、それぞれ「譲渡所得×税率」で税額を算出します。そして今回は、納税資金の準備のために換金性の高い上場株式の譲渡した場合をテーマとして記載しようと思います。

【3】分離課税される株式の譲渡所得の計算方法

(1)譲渡所得の計算方法

株式の「譲渡所得」は次の式で計算します。

(株式の譲渡による収入金額)-(株式の取得費※1+株式譲渡にかかった費用※2)

 ※1)取得費には、株式を購入時の金額(取得価額)のほか、購入時の手数料や消費税、名義書き換え料を含めます。なお、相続により取得した株式の場合には、被相続人が購入した当初の取得費を引継ぐこととなります。※詳細は後述

 ※2)株式譲渡にかかった費用には、譲渡時の手数料や消費税があります。

(2)譲渡所得の税率

 税率は上場株式・非上場株式いずれも、一律20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)となっています。

(3)譲渡損が生じる場合

 株式を譲渡して損をした場合には課税はされません。申告の必要もありません。ただし、上場株式の売却による損失が生じた場合は、確定申告すれば他の特定口座で生じた配当所得や他の株式の譲渡所得などと相殺(通算)することができ節税になります。

 それでもまだ損失が残るなら、残った損失を3年間、繰り越すことができ、翌年以降の株式の譲渡所得や配当所得と相殺(通算)することができます。

(4)相続で取得した株式の「取得費」

 相続で取得した株式の譲渡所得を計算する上で、一番難しいのが「取得費」です。特定口座に預けられていない又は特定口座に預けていたとしても、亡くなった方である被相続人が当初いくらで取得したか分からないケースも多いのです。

 相続により取得した株式の取得価額を相続税で評価した金額と捉える方もいらっしゃいますが、株式をもともと持っていた被相続人が取得したときの取得価額まで遡るので注意が必要です。

~取得費を調べる方法~

 譲渡した株式の取得費が分からないと、譲渡所得は計算できません。被相続人が取得した株式は、証券会社が把握していたりするので、以下の手順で調査することとなります。

①株式購入時に証券会社から交付される「取引報告書」で確認する

②株式の購入先である証券会社に「顧客勘定元帳」で取得費を調べてもらう

③預金通帳の出金履歴から取得価額を探す。

 出金履歴等で取得日・取得時期がわかればその当時の相場からその株式の取得費を算定できます。

④名義書き換え日を調べて取得時期※を把握し、その時期の相場を基に取得費を算定する。

 ※株式の発行会社や名義書き換えの受託先である証券代行会社に、株式名簿や複本、株式異動証明書を確認してもらえば株式の取得時期(名義書き換え時期)が分かります。この時期の相場を基に取得費を算出するのです。また、株式電子化後に手元に残った株券の裏面でも確認することができます。

⑤「譲渡対価×5%」を取得費にする

 ①~④の手順で調べても取得費が分からないなときは「譲渡対価×5%」を取得費とすることができます。この「譲渡対価×5%」の概算の取得費は、実際の取得費が分かっている場合でも⑤で算出した金額を使った方が得するケースがあり、そのようなときでも「譲渡対価×5%」を取得費とすることができます。

 ただし、「譲渡対価×5%」を取得費とすると、譲渡対価からその5%を引いた残り95%が譲渡益(譲渡所得)となってしまうため、多くの場合、実際の取得費を把握した方が良いでしょう。

【4】確定申告が必要な場合・不要な場合

 上場株式は、「特定口座(源泉徴収あり)」「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座」のいずれかが取引口座です。「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座」で上場株式を譲渡した場合は確定申告をする必要があります。

 一方、取引口座が「特定口座(源泉徴収あり)」なら特定口座内で税金の計算が完結しているので、確定申告は不要です。しかし「特定口座(源泉徴収あり)」内で計算した結果、それでも譲渡損が出ている場合には、あえて申告した方が節税になることとは上述の通りです。

【5】支払った相続税の一部が取得費となる「取得費加算の特例」による節税

 相続した株式を相続税の申告期限から3年以内に譲渡すれば、相続税の一部が取得費に加えられる「取得費加算の特例」を使うことができます。

 相続税の一部が取得費に加えられることにより、譲渡益が減少し節税となるので計算することを忘れないようにしましょう。