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小規模宅地等の特例

2023.07.24

 今回は、相続税の中でも土地の評価について最も大きな影響が大きい小規模宅地等の特例について説明します。

 遺産が一定額以上なければ、相続税は課せられないので、相続税が課せられるほどの遺産となると、ご自宅など不動産が含まれているケースは多いです。また統計上、相続財産の最大部分を占めるのは不動産であり、中でも土地の相続税評価額がいくらになるのかというのは、相続税に与える影響はとても大きいです。

 土地は居住の用に供するなど相続人が生活をするための役割を担っているケースも多いので、そういった財産について丸々相続税の対象としてしまうと、後に残された家族が生活に困ってしまうことも考えられるので、一定の要件を満たす生活に必要な不動産については、最大80%も評価額を下げることができます。

 その土地の評価額を一定額下げられる特例を「小規模宅地等の特例」と言います。

 

【1】小規模宅地等の特例の対象となる土地とは?

小規模宅地等の特例の対象となる土地は、簡単にまとめると

(1)特定居住用宅地等・・・被相続人等の居住の用に供されていた宅地等

(2)特定事業用宅地等・・・被相続人等の事業(貸付事業以外)の用に供されていた宅地等

(3)貸付事業用宅地等・・・被相続人等の事業(貸付事業)の用に供されていた宅地等

 となります。

※被相続人と同族関係にある一定の法人に貸し付けられ、その法人が事業に使っていた土地、日本郵便株式会社に貸し付けられている一定の郵便局舎の敷地の用に供されている宅地等についても「小規模宅地等の特例」の適用がありますが、今回の説明からは省略します。

具体的には

(1)特定居住用宅地等

 特定居住用宅地等とは、被相続人の居住の用に供されていた土地のうち一定の要件を満たす土地のことです。また被相続人と生計を共にしていた親族が住宅として使っていた土地も小規模宅地等の特例の対象となります。さらに被相続人が亡くなる直前に老人ホームに入居していた場合でも、被相続人の居住の用とみなされたり、別々に生活をしていたとしても仕送りなどをしている場合は生計を共にしていたとみなされます。とてもややこしいですが、適用が受けられると、土地の評価額が80%も減額される特例なので、土地の所有者の生前から適用を受けるための要件は確認しておいた方が良いでしょう。

(2)特定事業用宅地等

 特定事業用宅地等とは被相続人の事業(貸付事業以外)で使われていた土地のことです。被相続人が事業(貸付事業以外)に使っていた土地うち一定の要件を満たす土地が小規模宅地等の特例の対象となります。また、被相続人と生計を共にしていた親族が事業(貸付事業以外)に使っていた土地も小規模宅地等の特例の対象となります。

(3)貸付事業用宅地等

 貸付事業用宅地等とは被相続人が土地を第三者に貸したり、その土地の上に建物を建てて賃貸するなど、不動産貸付業に使われていた土地のうち一定の要件を満たす土地が小規模宅地等の特例の対象となります。また、被相続人と生計を共にしていた親族が不動産貸付業に使っていた土地も小規模宅地等の特例の対象となります。なお、駐車場や駐輪場であっても敷地上に構築物がある場合は小規模宅地等の特例の対象です。

 

土地の種類 定義
(1)特定居住用宅地等 住宅として使われていた土地
(2)特定事業用宅地等 事業で使われていた土地
(3)貸付事業用宅地等 不動産貸付業に使われていた土地

 

【2】小規模宅地等の特例の要件

それでは、具体的に小規模宅地等の特例の要件を見ていきましょう。要件は特定居住用宅地等・特定事業用宅地等・貸付事業用宅地等によって異なります。国税庁HP(参考)

(1)特定居住用宅地等

 特定居住用宅地等に該当するためには、大前提として被相続人又は被相続人と同じ生計の親族が住んでいた土地でなければなりません。

 ただし、亡くなる前に被相続人ご本人が老人ホームに入居していたとしても、①被相続人ご本人が要介護認定または要支援認定を受けている②自宅を賃貸に出していないことを条件に特定居住用宅地等に該当することがありますので、心当たりがあれば専門家に相談されることをお勧めします。

 また別居の親族でも、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例が受けられるという制度があり、「家なき子特例」と言われたりします。

 ①相続開始直前の土地の利用状況②土地の取得者の要件③申告期限までの要件ごとに表にすると以下の通りになります。

 

①直前の土地の利用状況 ②土地の取得者の要件 ③申告期限までの要件
被相続人の居住用 配偶者 A) 要件なし
同居親族 B) 申告期限まで居住
申告期限まで所有
家なき子 D) 申告期限まで所有
生計一親族の居住用 配偶者 A) 要件なし
生計一親族 C) 申告期限まで居住
申告期限まで所有

 A)被相続人の配偶者が被相続人や生計一親族が住んでいた土地を相続した場合、配偶者がその土地に住んでいなかったとしても小規模宅地等の特例を適用できます。

 B)被相続人と同居していた親族が相続した場合、その土地に住み続けるのであれば小規模宅地等の特例を適用できます。

 C)なお、被相続人と生計を共にしていた親族が住んでいた土地をその親族が相続し、そのまま住み続けた場合にも小規模宅地等の特例を適用できます。

 D)家なき子は要件が複雑です。国税庁のHPに記載されている要件は、下記の(a)~(f)の通りですが、配偶者及び被相続人と同居していた親族がいないこと、相続開始前3年以内に、宅地を相続する親族が自己または自己の配偶者の持ち家に住んでいない、相続した宅地を相続税の申告期限まで所有している要件を満たしていればご検討いただいて良いのではないでしょうか?

 ※D)家なき子の要件

  (a) 居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと。

  (b) 被相続人に配偶者がいないこと。

  (c) 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと。

  (d) 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族または取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと。

  (e) 相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。

  (f) その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること。

(2)特定事業用宅地等

 特例事業用宅地等として小規模宅地等の特例を適用するには被相続人が被相続人が生前からその土地で事業を営んでいる必要があります。また、土地を相続した人が相続税の申告期限まで事業を継続していなければなりません。

 また、相続開始前3年以内に事業用に使われ始めた土地については、例え節税目的でなかったにしても、小規模宅地等の特例の対象から外れることになりました。

 ただし、その土地の上の事業に使われている減価償却資産で、その事業に係る業務の用に供されていたものの価額が土地の価額の15%以上である場合、相続開始前3年以内に事業用に使われ始めた土地であっても小規模宅地等の特例が適用を受けることができます。

(3)貸付事業用宅地等

 貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例を適用するには被相続人が生前からその土地で不動産貸付業を営んでいる必要があります。また、土地の相続人が相続税の申告期限まで不動産貸付業を継続していなければいけません。

 ただし、相続開始前3年以内に不動産貸付業用に使われ始めた土地は特定事業用宅地等と同様、小規模宅地等の特例の対象外となりますので、注意が必要です。

 

【3】小規模宅地等の特例の限度面積と減額割合

 小規模宅地等の特例は、その対象となる土地の種類に応じ適用できる限度面積が定められています。つまり下記の表の限度面積までは、それぞれの減額割合に応じ評価が下がることになりますが、それを超える面積については減額されません。

 例)被相続人の自宅(特定居住用宅地等に該当)

   減額前の相続税評価額:5,000万円

   面積(地積):500㎡

   減額後の相続税評価額:5,000万円-5,000万円×80%(減額割合)×330㎡/500㎡=2,360万円

 

(小規模宅地等の特例の限度面積と減額割合)

 

土地の種類 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等 330㎡ 80%
特定事業用宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用宅地等 200㎡ 50%

 

【4】小規模宅地等の特例と相続時精算課税制度との関係

 相続時精算課税を利用して取得した土地について、土地の評価額について相続税の計算に加えられることから、相続で取得した土地と同様に小規模宅地等の特例が適用されることを期待される方がいます。

 小規模宅地等の特例は、あくまで相続または遺贈により取得した土地について適用があります。したがって相続時精算課税制度を利用して贈与により取得した土地については適用がないので、安易に土地を贈与しては危険です。

 相続時精算課税制度とは60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、子・孫の届出により適用できる制度です。

 届出をした年から累積2,500万円までの贈与は非課税になりますが、それを超える金額の贈与については20%の贈与税が課せられます。相続時精算課税は2,500万円もの非課税枠があり贈与により早期に財産を異動することはできますが、その後相続が発生したときにその贈与財産の価額は、相続財産の額に加えられ、相続税が課せられることとなります。

 なお、相続時精算課税制度を利用して、生前に贈与税が発生していた場合、その贈与税額は、相続税額から精算することになります。